サスライガー
「ロックの回想」

  小さい頃はJ9のキッドに憧れて銃を撃つ真似してた事もあった。あんなヒーローになれたらと思っていつしか俺も銃に興味をもった。キッドって奴は太陽系で 右に出るものがいない程の腕をもっていたとは聞いた。それなら俺も奴を越えるぐらいの腕になりたいとライバル意識が出てきた。過去の男にそんな気持ちが芽 生えるほど俺はJ9に憧れていた。まさか後に自分がそのJ9のメンバーを名乗ろうとは思わなかったが。

  俺にとってこのサスライガーでの旅は自分探し、いやそんなロマンを求めるようなもんではなかった。成り行きとは言え、簡単にメンバーになって旅に出たもの の過去の辛いことに正面向かって挑まなければなかった。俺には親父や仲間の復讐があった。何人もの仲間を殺した奴等に復讐してやりたかった。一見甘ちゃん に見える俺だけど、やるときはやる奴だと俺自身そう思っていた。復讐に燃えて表向きは仇はとったことになったが、やはり俺は甘ちゃんだったと今になって思 う。ど んなに憎しみが強くて相手を殺してやりたいと怒りのままに復讐してもその後はなぜか虚しさが込み上げる。人を撃った後はどんな時でもいい気分ではない。俺 自身どんどん罪が重くなるように肩に見えない荷物がのしかかるようだ。

  そしてもう一つ俺はまた辛い過去に直面した。ジュディと再会してしまった。ジュディと出会ったのは俺がまだ中学の頃だった。ちょっといきがっ て友達と夜のターバンで面白半分で酒を飲んでたときだった。あのときもう少しで見つかりそうになったところをジュディが助けてくれた。隠れるところはな かったといえジュディの咄嗟のキスには俺は体がしびれて動けなくなってしまった。あんときは少し酒も入っていたけどいい気分には間違いなかった。あれが大 人の女性ってやつかって青少年の胸がときめいた瞬間だった。いやあの時は俺は性少年だったのかもしれない。

  俺は本気だった。ジュディが好きでたまらなかった。ジュディが俺といつも一緒にいてくれたのもきっと俺のこと好きでいてくれると思っていた。まさかジュ ディに男がいたとは思わなかった。奴を見たときは俺のハートはまさにガラスが割れるような音を立てて崩れていったような感じがした。俺がまだガキだったの は仕方なかったけど初恋が実らなかったのは切なく暫く尾を引いてため息が続いた日々だった。

  まあ俺も若いし、他にも女は沢山いる。それなりにかわいこちゃんをみればときめいたりもしたけどジュディ程真剣になった女はまだいなかった。この旅でまた 彼女に出会うとは思わなかったが、あの時の思いまで鮮明に蘇るとは過去の失恋はかなり俺には影響を与えていたんだと再認識させられた。

  相変わらずの彼女に俺は昔の楽しかった思い出を重ねて見ていた。今の俺が彼女に出会っていたら恋は実っていたのだろうかって"もしも"ってヤツを考えてし まった。そんな自分が滑稽だったが、ジュディと二人っきりになったあのときジュディは俺に何を言おうとしていたんだろう。言いかけて途中でやめちまいや がった。あり得ない事をつい考えてしまうほど俺はまだジュディが好きだった事に気が付いた。俺も自称女好きで『女は男に惚れさすの』と言ってはかっこつけ ていたけど俺もただのつまんない普通の男だったって訳だ。

  そんな弱みは他の奴等にはみせられなくてつい無理して突っ張ってしまったけどまた次の星で簡単に女に惚れちまって失恋していたんだから本当にお笑い草だ。 なんにせよ色んな思い出を残してこの旅はこれで終わってしまった。俺の復讐も過去の甘酸っぱい恋の思い出も冒険心もチャレンジもここで終止符をつける時が 来た。

  辛いときも俺を励まして一緒に楽しく旅をしてきた奴等とここで別れるのは悲しいがこんな旅がいつまでも続くわけもない。始まりがあれば必ず終りがやってく る。次のステップを踏むときがやってきたという訳だ。まずは高校を終わらせて次は大学 にでも行って勉強に励むのもいいだろう。憧れのJ9のメンバーになれた訳だしこれで俺も伝説のキッドに近づけたってことだ。他の奴等はどうするのか全くわ からないが、潔くここでアバヨと去っていくのも必要だろう。もう過去は振り返らず前をひたすらいかなくてはならない時がきた。

  皆、楽しかったぜ。またいつか会うときまでな。

『Be happy, good luck!』

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