遺言


かつて俺は世の中の理不尽に腹を立てていた。
世界は荒れ、弱い者が苦汁を飲み嘆き悲しんでいるのに、
上は何もせず、ただ自分たちの権力を守るために汲々とし、
そうでなければ苦しむ者たちを嘲笑って楽しんでいた。
そこに外宇宙人の到来だ。
恐れていたのは権力者ばかりではない。
上も下もすべての人々が今までの暮らしからの変革を予感し恐れていた。
だが上は、自分たちのことしか考えておらず、民衆は置いてけぼりだった。
だけどさ、本当に腹立たしかったのは、
上の権力者どもではなく
無責任好き放題にしゃべりまくっている知識人どもでもなく、
腹を立てながらもなにもできない
無力な俺自身だったんだ。
アステロイドでバイクを駆り、喧嘩喧嘩で暴れ回っていても、
心はいつも空虚だった。
そんなときディーゴが言ったんだ。
「J9やろうぜ!」と。

ディーゴにとって、ガキの頃からJ9は憧れだった。
強きを挫き弱きを助け、
そしてカーメン・カーメンの太陽系破壊計画(※1)から
人類を救った大英雄だと信じ込んでいた。
まあ実際はそんなおきれいなもんじゃないだろと俺は思うけどな。
…人間なんだし。
だがな、ディーゴがJ9をやろうというのは、つまりそういうことなんだ。
単純なことだ。
「星から星へ、泣く人の、涙背負って宇宙の始末」ってことさ。

そして俺はその単純な提案に乗ったんだ。

ヒーローになりたいっていってもな、
世の中きれいごとばかりではやっていけない。
だから俺は初めから汚れ役を引き受けるつもりでいた。
詐欺まがいの大借金でスリーJからバクシンガーとバクシンバードを手に入れたりしてな。
(スリーJには後で返したし、もうけさせてもやったが。だが当時は不安だったろうな。あいつにもいろいろ世話になったなあ)
代わりにディーゴには、いつも真っ直ぐにいてくれるように望んだ。
もともと真っ直ぐなやつではあるが、生まれつきだけでは足らない。
奴が不動の意思を持って、真っ直ぐであり続けることを俺は望んだ。
いいだしっぺなんだから、当然だろう?

ディーゴは烈風隊の意思であり、正義。
そうあらねばならなかった。
そうでなければ、隊士たちをまとめ、引っぱり、危険に叩き込むことなどできなかった。
俺たちの命の保証は志であり、志の保証がディーゴなんだ。
今思えばとんでもないことを望んでいたものだと思う。
あいつは何百人もの隊士たちの志を
すべて請け負って泰然自若としてたんだぜ?
ディーゴが死んだ後、俺が隊を率いることになって、
改めてそのすごさを思う。
あいつが俺の要求を裏切ったのはただ一度、
それがあいつの最期だった。

俺たちを追ってくるトルサ艦隊から
殿を守ろうとしたあいつの気持ちはわかる。
先に情報を得たのが俺ならば、俺も迷わずそうしたろう。
だが、どうして失われるのが奴なんだ?
リーダーを失った俺たちはどうすればいい?
やるべきことはわかっていたはずなのに、
ただとまどうばかり。
そして代わりに理不尽さと怒りが心にもたげてくる。
…これは裏切りだと。

だがディーゴは本当の意味で、俺たちのことを裏切ってなどいないのだ。
いざというときに盾になってくれるあいつだから、俺たちはあいつを信じられた。
その身を捨てても、未来に行けと指し示してくれるあいつだから、命をかけられた。
あいつがあいつらしいことをして、
結局のところそれだけのこと。
あいつがあいつでしかないことが、なんの裏切りであるものか。

ああ、この思いは、
理不尽ではない、怒りでもない、
ただ悲しいだけなのだ。


今日の戦いを最後に、烈風隊は滅びる。
何人かは生き残るだろうか。だが俺にその道はない。
今烈風隊に責任を持っているのは俺だ。だから俺だけは烈風隊と運命を共にする。
けれどディーゴの遺志を継ぐならば、
俺は未来をあきらめたくはない。
命長らえることではない。
未来のためにこの残り少ない命を使うことだ。
そして生き残った人々、我々を信じてくれた人々に、
俺たちが絶望と悲嘆ではなく、望みと誇りのうちにあったと、
だから昂然と未来に向かってほしいと伝えたい。
俺たちの命が未来への礎になればいい。
それは望み過ぎだろうか?

ジャッキー、ファンファン、
俺は昔、おまえたちが俺たちと同行することに反対した。
だが今は、おまえたちがいてくれてよかったと思う。
俺はおまえたちのおかげで、
俺たちのいなくなった後の未来を望むことができる。
敵を恨むな。
ロングーも、ゴワハンドも、トルサも、
未来を望んでいたのは同じ。
俺たちに、時に利がなかっただけだ。(※2)
時を恨むな。
時を恨むことは未来を否定することだ。
ディーゴは未来のために散った。
俺たちも同じ道を行く。
だがおまえたちは未来に生きるんだ。
そして俺たちの望んだ未来をその目に焼き付け、
その手で作り、さらなる先につなげるんだ。
その未来が、今より少しでもましなことを願う。
そうであれば、俺たちは報われる。
これは局長特命だ。
おまえたちは未来に生きて、俺たちの志を伝えるんだ。

ジャッキー・リー、ファンファン・リー
俺はおまえたちを誇りに思う。


天が高い。
「今日は死ぬにはいい日だ」(※3)
だれの言葉だったかな?







※1 大アトゥーム計画のこと。歴史記述では絶対呼び名変わるだろうな、ってことで、作ってみました。

※2 項羽「垓下の歌」、「時に利あらず」引用してみました。

※3 ネイティブ・アメリカンとアメリカ軍の戦いで、スー族の戦士が叫んだ言葉だそうです。又聞き引用なので、引用元不明




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(補足というか言い訳)
放映終了後30年近く一度も見てないので、記憶曖昧です。間違いがあったらすみません。
シュテッケンで書きましたが、たんに書きやすいからです。他の連中も思いは大差ないと思っています。ですが能弁なビリーやクラやサイトーが想像できない!

引用は、どうしても入れたかったので強引に入れました。違和感あっても入れる!…ってなんのこだわり?(笑)
昔 もそうだったんですが、書いていると、自分でも思ってもいない展開が出てきます。「裏切り」ってなんだ? でも自分的にはおいしいネタだと思ったので、削 除せずにおきました。とはいえ言葉で気分を害する方がいらっしゃるかもしれませんので、あらかじめおことわりさせていただきます。

いちばん問題なのは、口調が違っていることですね。シュテッケンはこんな言葉づかいはしない、と私も思いますが、時が過ぎたということでお許しください。今見直したとしても、たぶんもうあの口調は使えない…

今さらパロ書いてみて思うのは、年をとってこそ書けるものがあるんだなということ。昔は昔で、若いからこそ書けたものがあった。当時のを読み返すと、未熟なんだけど勢いがあって、直せないという…(笑)。
しかし、たぶん昔書けなくて、どこかで引っかかっていたものが、ようやく言語化できました。もうこれが本当に最後でしょうね。

お目汚しですが、楽しんでいただければ幸いです。

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以上 SAMA様からの頂いた小説でした。


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