Braiger story

──第1話 見せ掛けの輝き──
 アステロイドベルト。小惑星が無数に浮かぶ宇宙。
 その一つに、決して眠ることはない年中昼間の街がある。そこは無法者、得体の知れないものが全宇宙から集まる有名な場所として知られている。そしてこの 街の中心となる一番賑やかな通りがビカビカストリートと呼ばれ、常に人で溢れて賑わっていた。
 ここを歩けば、チカチカと誘うように怪しい光を点滅させる大きなネオンの酒屋の看板がすぐに目に入る。その光の色使いは見るからに悪趣味で、いかがわ しい。
 まともな人間ならば近寄ることもないはずだ。
 それでも興味本位に西部劇を連想させるようなウエスタンドアを開く者が後をたたない。それは命を粗末にする事と同じ行為だというのに──。
 命の保障など全くない飲み屋のバー。だが美味しい酒が飲めるのか、向こう見ずはそこへ当たり前のように出向かっていた。
 ここでは年齢制限もなく、酒を求める者はお金さえ払えば誰でもお咎めなしに振舞われるところであった。
 これだけ危ない場所で有名でありながら、そんなことは気にもせず、グラス片手に気取った台詞を吐き、軽いノリで一時の憩いをこの場で楽しんでいる輩がい た。
 影のポリスと呼ばれる連中、その名もコズモレンジャーJ9。アステロイドで暴れまくる若者達だ。
 お金と正義感と気分次第で人様の依頼を受け持ち、悪をぶった斬る。
 仕事をさせればピカ一だが、オフの時と酒が入ったときはおふざけが楽しいとばかりにどうも悪乗りするようだった。
 だからこそビカビカストリートの酒屋は、彼らにはスリリングな楽しい遊び場となっていた。
 
 黒い革のような素材の服を纏い、腰に最新の銃を構えているのが、木戸丈太郎。通称ブラスター・キッド。その名のごとく、火気系の飛び道具を持たせると右 に 出るものはいない。グラス片手に気取った笑みを向けて、しゃれた言葉を目の前の男に向けている。そいつの前では羽目を外せるのか聞いててバカらしい会話が 飛び交ってい た。
 そのキッドの相手をしている男は帽子をトレードマークにして、エンブレムが腕についたブルーのジャケットを着ている。ニタニタと白い歯を見せ、頬のソバ カスもコミカルに動き回る程の表情豊かさだった。キッドに 合わせるそのノリの良さはメンバーの中でもピカ一。それがスティーブン・ボウィ。通称飛ばしやボウィ。服装、通称からも想像できるが、車好きの元プロレー サーだ。
 この二人の会話に程ほどに相手している女性も側にいる。二人が調子に乗ると時々セクハラまがいのことを受けるのでバカ騒ぎはそこそこだが、うっかり油断 して気に障ることをしてしまえば彼女は容赦しない。女であっても男顔負けの度胸を持ち、爆弾ですら玩具のように扱う。それがバレンシア・お町。通称エン ジェ ルお町。見かけは可憐であっても近 寄るには相当の覚悟が必要か もしれない。
 最後に、一人くそ真面目な顔つきで、チビチビとオレンジージュースを飲んでいる男がこの三人と少し距離を空けカウンターのストゥールに背中を向けて座っ ている。独特な自分の世界をバリヤーの ように張り巡らせて、近寄りがたい雰囲気が漂うが、三人からは絶大に信頼されている。それもそのはずこのグループのリーダーであり、コズモレンジャーJ9 を 発足させた張本人。アイザック・ゴドノフ。通称かみそりアイザック。切れ者だが、頭がいいことだけを表している言葉ではない。彼の右手が腰に装備されてい る電磁ムチに触れれば、次の瞬間、命を落しているかもしれない。
 このメンバーが揃えば泣く子も黙る程、その存在は一目を置かれる。命の保障もないような場所で緊張をほぐし羽目を外せるほど、彼らには怖いものはない。
 この日も、一仕事追え、悪を自分達の感性でぶった切り、それなりに報酬を受けたのか超ご機嫌だった。そういう日は少ないだけに気分はほろ酔い加減。
 しかし何やら気になることがあるのかお町が小声で問いかけた。

「ねぇ、さっきから気になってるんだけど、あの隅っこのテーブルに座ってるかわいい坊やがどうもあたし達の事ちらちら見てるようよ」
 一同その坊やと呼ばれた少年の方へと視線を向ける。四人から一斉に見られて慌てたのか、その少年はすくっと席を立ってその場から離れようとした。
 その少年は少し小柄で J9のメンバーより年下っぽい。全身をコバルトブルーの革服を体にぴったりと装着させ、まるでキッドの服装を真似ているようだった。
「なんかキッドさんの弟みたいじゃない」
 ボウィがそういうとアイザックはじっとその少年を訝しげに睨んでいた。
「おいおい、俺に弟なんていないぜ」
 見るからに自分のコピーキャットのようでそれが逆なでするのか、キッドは顔を歪ませ不快感を露にしていた。

 少年は明らかに自分のことを言われていると思うと、逃げるように出口に向かう。慌てて足がもつれたのか扉附近で偶然店に入ってきた体の大きい柄の悪そう な 男達と軽くぶつかってしまった。
「おい、そこのガキどこ見て歩いてるんだ」
 少年は一応『ごめんなさい』と弱々しく謝ったが、虫の居所が悪かったのか男達はその少年が気に入らなく舌打ちを打った。
 そして条件反射のように手が出ると少年の胸倉を掴んでいた。

「ああ、あの子痛い目にあいそうね。ちょっと助けてあげようか」お町が言うと、「ほっとけばいいんだよ。少しは痛い目見ないとあんなガキこんなところに来 ちゃいけないってわからないんだよ」とキッドは自業自得だと冷めていた。
「おい、あの子の手をみろよ」
 ボウィが指摘すると皆の目が見開いた。
 少年は足が地に付かないほど胸倉を持ち上げられながら、銃を握って男の腹に向けていた。

「僕、謝ったでしょ。それともおじさん達痛い目に遭いたいの?」
 透き通ったかわいらしい声と台詞が合ってない。少年は冷や汗を額に薄っすらと浮かべながらも必死に抵抗していた。
 銃の安全バーを外し、カチャっと微かに音を立て、今度は男の腹に食い込ませるほど押し込んだ。
 男は少し怯んだがこんな小僧に脅されてプライドが 許さない。一度は何事もなかった ように無言で少年を下ろし、無視をしたが、少年がその場から立ち去ろうとしたとき、油断を狙って後ろから少年に殴りかかろうとした。

「ああ、あの子やられちまうぜ。俺ちゃんほっとけないよ」
 ボウィが席を立ったときだった。少年は機敏な動きで後ろから襲ってくる男をひらりと交わして一発肩越しに脅しの銃をお見舞いしてやった。
 青白い閃光が矢のごとく宙を飛んだとき、辺りはしんとして固唾を呑む。
「おじさん、そんな事しても無駄だよ。次やったら外さないからね」
 あどけない少年の表情から似ても似つかないような、憎しみの睨みを男に焼き付けている。
 男たちは気にいらなかったが、少年の本気に手強わさを感じ、鼻でふんといいながら何事もなかったよう振舞い、仲間と一緒に店の奥へと進んで行った。
 周りの人間も誰も気にせず、また各々が酒を囲んで騒ぎ出す。
 少年は軽やかに銃を腰の位置に戻したが、まだ緊張した表情で様子を伺いその場に留まった。

「あら〜、あの子やるわね。なんか母性本能くすぐられそう」
 お町は色気を添えて鼻にかかる甘えた声を出していた。声の調子から余程少年が気に入った様子が伺える。
 不快感を露にしていたキッドですら、少年の取った行動は意表をつかれ「ヒュー」と口笛を吹く。少年の銃の腕前を見て侮れない奴だと口の端を斜めに上げて 見ていた。
 アイザックは無表情ででグラスに残っていたオレンジジュースを一気に飲み干し、機敏に立ち上がるとマントが翻った。
「みんなそろそろ帰るぞ」
 アイザックの一声で一同テーブルから立ち上がった。
 そして出口へと向かい少年に近づく。

「ねぇ、坊や、中々の腕前みたいね」
 お町が女の魅力を見せ付けるように笑顔を添えて話しかけた。
「ありがとう。きれいな方からそう言われて嬉しいです」
 少年は落ち着いた声で答えた。
「あら、正直な子ね。それに近くで見るとなんて美少年なの。益々母性本能くすぐられそう」
 少年は繊細な美しい顔立ちをしていた。
「お前、中々の腕前みたいだな」
 キッドが褒めると少年は急に微笑み浮かべ、「いえ、あなたの腕にはかないません。木戸丈太郎さん」と嬉しそうに答えた。
 キッドはフルネームで呼ばれた事に驚きを隠せず、目を見開いた。
「あらら、この子キッドさんの名前知ってる」
 ボウィも意味ありげなシチュエーションが気になり、声を出さずにはいられなかった。
 少年は満足したように姿勢を正すと益々堂々とした態度になった。余裕を見せ付けるように、にこりと笑顔を見せその場を去って行く。
「おい、待てよ。お前、なんで俺の名を……」
 キッドが引きとめようとするが、少年は振り向きもせずに街の喧騒の中へ早足で消えていった。
「おい、キッドさん、今の子と知り合い?」
 ボウィが不思議そうに首を傾げて聞いた。
「知らねえぜ、あんな奴」
「しかし、相手はキッドの事を知っていたみたいだな。どこかで会った事があるんじゃないか」
 アイザックも気になるのか、少年の消えていった方向を見つめていた。
 キッドは興味をなさそうな顔を見せながらも、心の中ではもやもやと消化不良を起こしていた。

 それから数日後。依頼の話がJ9基地に飛び込んできた。巨大スクリーンからポンチョがいい話とばかりに、目の色を変えて紹介している。この仕事が成立す ればかなりの利益を得られるので必死だった。J9が影のポリスなら、ポンチョは影の商人であり、J9に仕事を持ちかけ依頼者とJ9の仲介役として商売して いる。
「600万ボールの依頼でゲス。内容は会社の金を横領したこの男を探して金を取り戻して欲しいそうでゲス。何でも1億ボールくらい持っていったそうで、会 社はどうしても捕まえてお金を取り返したいそうでゲス」
 画面は男の写真に摩り替わる。一見、犯罪者には見えないサラリーマン風の堅苦しい真面目そうな顔つきだった。アイザックだけが難しい顔を見せてその男の 写真を魅入っていた。
 だが金額の大きさでボウィがそわそわとして突然大きな声で叫びだす。
「600万ボール! しかも簡単そうなお仕事。俺ちゃん乗った。アイザックやろうぜ」
 せかすようにアイザックの袖を引っ張った。相変わらずの軽いノリで、ボウィは飛び上がって出口に走りすぐさまブライサンダーに乗り込む気になってい た。
「私も乗ったわ。たまには楽な仕事で大儲けしても罰は当たんないって。さあて、キッドちゃんはどうでるかしら?」
「ああ、俺も乗ったよ」
 鼻で笑うように皆に合わせていた。
「わかった。別に断る理由も見つからない。依頼を受けよう。ポンチョその男の目ぼしい潜伏先を知らせてくれ。すぐに調査しよう。皆、それでいいな」
「イエ〜イ」
 待ってましたとばかりに、三人は同時に親指を立てていた。

 仕事を請け負ったJ9のメンバー、今回は楽に金儲けができるとあって一同も遠足に行くようなうきうき気分で目的地へ向かっていた。
 金を横領したという男の潜伏先の居場所も絞り込んで目星がつき、向かうは小惑星の一つに設置された賭事ありのカジノ場。ビカビカストリートと同じ匂いが 漂う無法者 が集まるような場所で あった。
「あらら、1億ボールも持ってるのにさらに賭事しようなんて、すっからかんになるのが落ちなのに馬鹿な男ね」
 お町は周りのギャンブルに依存するような人間にも呆れた目を向け、辺りを見回していた。
「俺ちゃんなら、賭事せずにすぐに車買うぜ。1億ボールだろ。車何台買えるんだ」
「ああ、俺も好きなだけ銃やレコード集めちゃうね」
 ボウィもキッドも自分の趣味のために使いたいと言っている。
「アイザックはどうするんだい。1億ボールあったら何に使う?」
 ボウィが尋ねた。
「私は貯金だ」
 アイザックの色気のない回答に、やれやれと言いたそうに三人は顔を見合わせていた。
 皆は知らないだろうが、J9基地の維持費やエドモンドのおやっさんにメカの整備代を払わなければならないと言えない心情を胸に押し込んで、アイ ザックは気づかれずにため息を小さく吐いていた。

「あっ、あの子だわ」
 突然お町が叫ぶと、目の前に先日バーで見掛けた少年が周りを気にしながら歩いているのに気がつく。
「あっ、あいつ、こんなとこにも来てやがった」
 キッドは思わず少年の方に駆け寄って行った。
「おいおい、キッドさん。今は勤務中だぜ」
 ボウィの冷やかしが飛んだが、真剣に止める気はなさそうだった。

「おい、お前!」
 キッドが少年の肩に手をかける。
 条件反射のようにびくっとしながらも少年が振り向くと、目の前のキッドの登場に大きな目をさらに大きく丸くしていた。
「木戸丈太郎さん」
「また俺の事フルネームで呼びやがる。俺はキッドだよ。ブラスター・キッド。本名で呼ぶのはやめてくれ。そういうお前はなんて名だ」
 自分の名前を聞かれたことに少年は目を輝かせ素直に喜んでいたが、「ぼ、僕、ライリー……」と自分の名前を言った時、なぜか恥じらいでいる様子に取れ た。
「ライリー、なんで俺の名を知ってるんだ」
 ライリーはその質問に答えることもなく、キッドをじっと無言で見つめていた。
「おい、なんで答えないんだ」
 苛立つキッドにライリーは一瞬どうしていいのか分からず戸惑う。
「僕……」
 少年が言いかけたときだった。アイザックの目は獲物にフォーカスを定めたように一瞬光る。
「キッド、そいつだ。捕まえろ」
 依頼主に見つけて欲しいと頼まれた横領した男が、突然人ごみの中から現れた。
 写真で見たよりかは無精髭が生えやつれている。
 アイザックの咄嗟の叫びに、ボウイ、お町も男目掛けて突っ走る。
 するとライリーは意外にも男を庇い、J9のメンバーに銃を向け刃向かった。その目つきは以前トラブルが遭ったときに見せた命を張ったような鋭い 眼 差しだった。
 ライリーを盾に男はその後ろで悲痛な顔をして身構えていた。
「僕たちに近づくな!」
「どうなってんの?」
 その展開にボウイは不思議そうに肩をすくめ、オーバーにリアクションしている。
「あら、坊や何やってるのかしら」
 お町も小さな子供のいたずらを注意するかのように施す。

「ジェフリーさん、ここは僕に任せて早く逃げて」
 ライリーの言葉に横領した男は頷き、ライリーを気にしながらもその場を去っていった。あっという間に人ごみに紛れる。
 四人は余計な邪魔が入ったと、イライラを募らせてライリーの銃を見つめながらじりじりしていたが、四人の威圧にライリーの精神は追い詰められ限界に達す る。アイザックはそこを見逃さなかった。
 容赦ないアイザックの素早い電磁鞭が、目にも止まらぬ速さでライリーの手に向けられた。銃がラ イリーの手から離れた 時、キッドはライリーに銃を向け、「甘いんだよ」といいたげに気取った笑みを向けていた。
「さあてと、事態は逆転した。ここは俺に任せて、皆はあの男を追え」
 三人は「了解」とキッドに目で合図すると、そのまま男の走った方向へと追い掛けていった。
 ライリーはキッドに睨まれながら、絶対絶命とばかり顔を歪ませ る。時折、地面に転がる自分の銃をチラチラ見ながらどうすべきか冷静になろうとしていたが、アイザックに鞭で打たれた手が痛み無意識にその部分を押え込 む。
「ライリー、一体なんの真似だ。なぜあの男を庇う?」
 話しかけられたことで、キッドの殺気が緩んだように見えた。ライリーは足下に落ちた自分の銃を横目で見ながらチャンスを伺う。キッドに勝てる訳はないが 一か八かに賭けて無謀にも飛びか かった。
 キッドは止むを得ず咄嗟に銃を発射してしまう。それでも狙いは正確で、わざとライリーの左腕をかする様に光線を中てた。
 傷を負って痛いはずなのに、それでもライリーは怯むことなく、無我夢中でキッドに抱きつくと、持てるだけの力を込めてキッドのバランスを崩させて地面に 押し倒した。
 本気になれないキッドにはその咄嗟の攻撃が交わせなかった。
 キッドの腕を手で押さえ込み、キッドと重なるように体を密着させたとき、目の前のキッドの顔のあまりの近さにライリーは突然我に返りはっとして、顔がみ る み る赤くなった。その恥じらいを見せるような紅潮した顔を見て、キッドは意外にも面食らって動きが鈍くなり、体が固まる。
 チャン スとばかりにライリーはすぐにキッドから離れ、床に落ちていた自分の銃を素早く拾ってそのまま横領した男を追うように走って行った。
「おいっ、逃がすか、待て」
 キッドも慌ててライリーの後を追い掛けた。

 アイザック、ボウィ、お町は、横領した男を取り囲むように行き止まりの路地に追い詰めていた。逃げ場を失い、男は覚悟を決めたのか、肩の力を抜くと諦め たとばかりに大きく 一度息を吐いた。
「さあ、横領した金はどこにある」
 アイザックが容赦ない鋭い目つきを突きつける。
「盗んだものは返した方があなたのためよ。いけない子ちゃんね」
 お町の言い方は色気と優しさが漂う。
「それとも俺ちゃん達に痛い目にあわされちゃってもいいのかな」
 ボウィは早く事件を解決して金を手に入れたいと、銃を構えてさらに脅していた。

「ジェフリーさんは何も悪くない!」
 左腕から血を垂らして苦しい顔をしながらライリーは現れた。
「こいつ、しつこいぞ」
 後ろから追いついたキッドがライリーの首根っこを掴んだ。ライリーはさらに暴れまくる。
「キッド、放してやれ。何か理由がありそうだ」
 アイザックの言葉に刃向かえず、キッドは気に入らないとでも言うようにライリーから手を離した。ライリーはジェフリーに走りより庇うように立った。
「ああ、キッドさんに撃たれちまったよこの子」
 ボウィが可哀想とでもいうように同情する。
「キッドなんでこんなかわいい男の子撃っちゃうのよ。」
 お町も少し立腹気味な様子だった。
「お前ら、敵だぞこいつ。俺に襲い掛かって来たんだ。仕方なかったんだよ。とにかく説明して貰おうか。なぜこの男を庇う」

「僕はこの人に雇われた、ただそれだけの事だ。だからジェフリーさんを守る」
 ライリーは男らしく言い切った。だが傷がうずくのか、脂汗を流し顔を歪ませて必死で踏ん張っているだけだった。
「雇われた?」
 ライリーのような弱そうな少年が雇われるなんて全員が信じられないとでも言うような声でいった。
「お前、何者だ?」
 キッドが聞いた。
「あなたたちが影のポリスなら、僕はフリーのボディガード兼ヒットマンさ」
 四人は信じられないとでもいうような顔をするとアイザック以外は笑い出した。
「あら、あなたのような坊やがそんな物騒なことしてるなんて考えられないわ。ねえボウィちゃん」
「いや〜俺ちゃんもびっくり」
「しかし相手が悪かったようだ。J9に楯突こうなんて十年早いぜ。坊や」
 キッドが気取ってバカにした態度を取った。
「あなた達だってあまり僕と年は変わらないじゃないか。見掛けだけで決めつけるのはやめろ。見掛けに惑わされてそれで判断するのは非常に危険だ」
 ライリーは必死で声を振り絞り叫んだ。
「だけどね、坊や、このおじさん悪いことしたのよ。会社からお金を横領したんだから」
 お町がなんとか説得しようと優しく話しかける。
「ジェフリーさんは横領なんてしていない。会社にはめられただけだ」
 ライリーの言葉から出てくる事情に四人は困惑する。
 一番興味を持ち、聞く耳を向けたのはアイザックだった。
「説明してくれないか。坊や」
「坊や坊やって呼ぶな、僕はライリーだ」
 ライリーはキッドに撃たれた腕を押えるように苦しそうに男の前に立ちアイザックをチラッと見たが、すぐに何かを訴えかけるようにキッドに視線を向けた。
 キッドはライリーに見つめ られ、さっき彼が顔を赤くする瞬間の事を思い出した。それと同時にまさかと何かを感じてしまう。
「いいんだライリー。もういいんだ。これ以上君に迷惑は掛けられない」
 男はライリーをなだめるように肩に手を置いてやった。
「でもジェフリーさん。このままじゃジェフリーさんは殺されちゃう」
「なあ、おっさん。一体どうなってるか俺たちに説明しろよ。そしてこいつは一体何者なのかも教えてくれ」
 キッドはライリーに見つめられながら、参ったとばかりに銃を腰に戻した。
「何か訳ありね。でもそれよりライリーの手当てをした方がいいかもよ。かなり痛そう」
 お町はライリーの腕が心配でたまらない。
「わかりました。隠していても仕方ありません。ライリーの怪我の手当てもしたいので私のホテルの部屋に来て頂けますか」
 ジェフリーは背中を丸め、疲れた足取りで皆を自分のホテルの部屋へと案内した。
 キッドはライリーの撃たれた腕を掴み様子を見ようと後ろから腕を掴んだ。ライリーはいきなり腕を掴 まれて驚いてすぐに振り払おうとしたが、痛みが激しくて振り切ることができない。精一杯声に怒りを込めて叫ぶ。
「触るな!」
「素直になれよ。撃ったのは悪かったが、お前が俺を襲うからこんなことになったんだぜ。ちょっとどうなってるのか様子をみてやるだけだよ。大人しくしろ」
 ライリーは触られるのが嫌だとでもいうようにもう片方の手でキッドの掴んだ手を振り払った。
「おいおい、お前生意気だな。しかし細い腕だな。こんなんでボディガードやらヒットマンなんてできる訳がないぜ」
「だから言っただろう。見せかけだけで判断するなって」
 ライリーはキッドをじろっと見たが、その目は睨むというよりも途中でどこかキッドを見つめていたいとでもいうような目付きに変わった。
 キッドはまたその目にたじ ろいだ。

 ジェフリーのホテルの部屋は安っぽく、J9のメンバーも入ると、あまり清潔とは言えない場所に嫌悪感を感じていた。これが一億ボールも横領した人間が借 りる部屋には見えなかった。
 ジェフリーはどこからかファーストエイドキットを出してライリーの腕を手当てしようとした。
「あら、それなら私がしてあげるわ」
 お町が手当てをしようとするとライリーは強く断った。
「自分でできます。放っといて下さい」
 あまりにもかわいくない態度にお町はがっかりする。
 ライリーは優しくするお町に気も遣わず、ファーストキットエイドをもってバスルームの中に入るとドアをバタンと閉めた。
「あらま、かわいくないガキだこと。折角美人なお町さんが手当てしてくれるというのにね。俺ちゃんなら喜んでやって貰うのに」
 ボウィは勿体無いと呆れた声で言った。
「あら〜いいのよ。きっと照れてるのね。益々かわいいじゃないの」
 キッドだけは、ライリーには何かあると感じていた。

「さあ、ジェフリー、詳しいことを話してくれないか」
 アイザックが本題に入ろうと話を振る。
 ジェフリーはベッドに疲れたように腰を掛けると事情を話し出した。
「私は会社の金を横領してません。コンピューターを使って仕事をしているときにたまたま出入金でおかしな記録があったのでそれを見ていただけです。それを 上司に報告した次の日に横領したと濡衣をかけられただけです。そして銃を向けて追い掛けられたので、つい逃げてしまい益々私が疑われるようになりました」
「しかし自分の身を守るためとは言え、なぜあんなか弱そうなライリーを用心棒にやとっちゃったの」
 ボウィが聞いた。
「ライリーは私の……」と言い掛けたときにライリーがバスルームからドアをバーンと開けでてきた。
「だからそれはあなた達には関係のない事だ。それにか弱いか弱いって放っておいてくれないか。この間は中々の腕前だって褒めてくれたじゃないか」
 ライリーは怒りをぶつけるように大声で叫んでいた。
「だけどお前はなんで俺の名前を知ってたんだ」
 キッドが聞くと、またあの目でライリーはキッドを見つめた。
 キッドはやっぱり何か違う世界の人間が目の前にいると確信を持つ。その瞬間、無意識で後ろに一歩下がっていた。
「僕はずっと前からキッドに憧れてたんだ。キッドは銃の早打ち大会でも優勝したし、地球防衛軍の隊長もしていた。すごくかっこ良くて僕の…… 僕の目標 なんだ」
 ライリーは少し顔を赤らめながら言葉を選ぶように話した。
 キッドはかっこいいと言われ当たり前だと言わんばかりに少しいい気になるが、本当にそれだけの理由だろうかと違う方向のことも同時に頭によぎる。
「へぇ、キッドさんのファンなのか。女にもモテるけど男からもモテモテなんてやるね〜キッド」
 ボウィが感ずいたのか茶化した。
「うるせぇボウィ。俺は男には興味ないぜ」
 キッドが掃き捨てるように言った。
「男はもちろんだけどあなたは女にも興味がない、興味があるのは銃とロックとギター。そうでしょ」
 ライリーは何でも知ってるとばかりに言った。
「あら〜この子キッドのことよく知ってるわ」
 お町もちょっと関心した。
「俺の事はどうでもいい。アイザックこの事件一体どうする気だ」
 キッドは自分の話を持ち出されるのを阻止しようと話題を変える。
「ジェフリーの話が本当ならこの事件の犯人は他に居る。ジェフリー、他に誰か心辺りはないのか」
 アイザックが聞くとライリーが待ってましたかのようにすぐに口を挟んだ。
「ビル・プレストリーさ、犯人は」
 ボウィもお町もライリーの強く言い切る犯人の名前に面食らった。
「なんでライリーが知ってるわけ?」
「そうよどっしてっ?」
 アイザックはライリーの心の奥を見つめるような眼差しで慎重に対応する。
「そのビル・プレストリーって誰だ」
 今度はジェフリーがその質問に答える。
「会社の社長の下で働いている者です。私の上司とは親しい間柄のようだ」
 それを聞いて一同はなるほどと話の筋が見えてきた。しかしまだライリーとこの事件の接点が見えてこない。なぜライリーが事件の真相を知っているのか確か めるように、今度はライリーに視線を向ける。
「だから言っただろう、見掛けだけで判断するのはやめろって。君たちが知らない事だって僕がわかる事もあるんだ」
「ライリーはその事を知っていたので私を見つけて守ろうとしてくれたんです」
 ライリーは突然ジェフリーにきつい視線を投げかけた。そしてそれ以上何も言うなとでもいうような脅した鋭い眼差しでジェフリーを睨んだ。
 ジェフリーはわかったとでもいうように目を逸らして黙り込む。
 アイザックはこの訳ありな様子を見ていて目を鋭くしていた。

「アイザック、この仕事どうする。犯人が他にいるんならジェフリーは捕まえられないわ」
 お町が腕を組み真剣に言った。
「ちぇ、簡単そうだと思ったのにちょっと複雑じゃないの」
 ボウィは膨れるように嘆いた。
 その時アイザックは脳をフル回転させ、どうすべきか対策を練る。
 暫く沈黙が流れたが、それを破るようにライリーが鋭く言い切る。
「僕がビル・プレストリーを殺ってくるよ」
 その仰天発言はありえないとばかりに、ライリーに呆れた表情を向けた。
「おいおい、俺の咄嗟に撃った、しかも狙いを定めた銃もかわせないようなお前に何ができるんだ」
 キッドはあまりにも無謀なライリーの発言に苛つくが、ライリーはキッドに期待を込めるように熱く見つめ、一か八かに頼んでみる。
「それならキッドも一緒に来てくれる?」
 甘えるようなかわいらしい言い方にキッドはたじろいだ。いくらライリーが自分に憧れてるとは言っても男から熱くアプローチされるのは身の毛がよだった。
「お前、さっきから俺のことあんまり熱く見ないでくれるか。俺本当に男には興味がないんだよ」
 ライリーは気分を害して、ふんっと首を横に振る。
「とにかくここはそのビル・プレストリーを捕まえたほうが早そうだ。奴から詳しい話を聞いてみよう」
 アイザックの提案に条件反射のように三人は「イエ〜イ」と親指を立てて承諾した。
 四人はブライサンダーでジェフリーの会社に向う。そしてライリーとジェフリーの車がその後をピッタリとついて行く。

「ねえ、ねえ、ライリーだけど、本当にキッドが好きなのかな」
 お町が興味本位にいきなり話し出した。
「おいおい、冗談でもやめてくれよ、そんな話」
 キッドは迷惑とでもいうように立腹しては頭を抱えていた。
「だったらさ、ライリーってもしかして、ほら、あっちの方面の男の子になるってことかな」
 ボウィが操縦しながらそれとなーく言葉を選んで言ったが、口元が笑っているところを見ると、キッドが困るのを見るのが楽しそうだった。
「なんだよあっちの方面って」
 キッドが聞き直すとアイザックがストレートに口を挟んだ。
「つまり同性愛者だ」
 キッドはぶっとんだ。
「いい加減にしろ! 俺をからかわないでくれ。俺はそんな気はこれっぽっちもないぜ」
「あら、今の時代男が男を好きになるのって全然おかしくないと思うけどな」
 お町が呑気に口にする。
「まあ、本人同士のことだから誰が誰を好きになろうと関係ないだろう」
 アイザックまでそういう世界を養護するので、キッドはまるで自分もそういう世界の人間だとでも決めつけられて憤慨した。
「俺は女の子の方が好きなの」
「あら、キッドさんその割には彼女まだいないね。モテるのに不思議〜」
「馬鹿、ボウィ、お前だって彼女いないじゃないか。あ、もしかしたらお前こそそうじゃなんじゃないの」
 キッドも負けてはなかった。ボウィは突然話を振られてハンドルを握り損ねて慌ててしまい車が揺れた。
「俺ちゃんもちゃんと女の子の方が好きなの。彼女いないのは振られる方が多いから」
 キッドもボウィも前の座席でぐちゃぐちゃ言い争う。その姿は後ろにいるものには見っとも無く見える。
「お前たち、そんな事はどうでもいい。それよりもジェフリーはライリーの正体について何か隠しているようだった。あのライリーはただ者じゃないかもしれな い。皆とにかく用心しろ」
 アイザックが牽制するように冷静に言った。
「ちぇ、あいつのせいでなんか俺、変に誤解されちゃったぜ。全く迷惑な話だ。あんなか弱い坊主に一体何を用心するんだ。いざとなれば簡単にやっつけられる ぜ」
 キッドは機嫌が悪くなり、前の座席でふんぞり返っていた。

 ブライサンダーの後ろにぴったりとついてくるライリーとジェフリーの車。ジェフリーは暫く沈黙で車を運転していたが、腹をくくってライリーに話し出し た・
「あいつがそうなのか。あのキッドという男」
 ライリーは小さな声で「ああ」とだけ言う。
「そっか、それで私に何も君の事を言って欲しくなかったんだな。でもこのままでいいのかい」
 何か心配でもあるようにジェフリーはライリーを見つめた。
「いいんだ。これで。キッドにこうやって会えて、そして名前を呼んでもらっただけで嬉しかったよ」
 そしてキッドに撃たれた腕をもう片方の手で触っていた。

 依頼主の会社へJ9のメンバーとライリー、ジェフリーは足を踏み入れる。そして六人は社長室を目指した。社長室に入ると本人ともう一人男がいる。ライ リーが唸るように睨みつけたのでそれがビル・プレストリーだとすぐにわかった。太ったタヌキのような社長の側でキツネのように目を細めて悪人面をしてい た。 社長はJ9がジェフリーを連れてきたので歓喜に溢れる。
「さすがJ9の皆さん。依頼通りに事を運んでくれますね。さて金はどこでしょうか」
 ジェフリーは一歩前に出て背筋を伸ばし社長に話した。
「私はお金を横領してません。濡衣を掛けられただけです。犯人は他にいます」
 それを聞いて社長は信じられないとでもいうようにジェフリーに軽蔑の眼差しを向ける。
「この場に及んで悪あがきはやめてもらおう。さて金を返して貰おうか。そうすれば多少の事は許してやる」
 その側でビル・プレストリーはにやっと含み笑いをしていた。その様子を見て我慢できなくなったライリーは突然銃を向けてビル・プレストリーに近づいた。
「やめろライリー」
 キッドが叫んだ。
「お前が犯人だ。ビル・プレストリー。殺してやる」
 ライリーは今にも撃ちたかったが、あまりの憎しみに感情が高ぶりその手は震え、狙いが定まらない。
「お前は誰だ。外部の人間が何を言う」
「僕を忘れたみたいだね。あんなに酷いことをしておきながら。僕の父もあんたに脅されて会社を潰されて死んでしまったよ。あんたは裏で悪いことばかりして いる奴さ。そして自分の会社の金まで横領して人になすりつけている。許さない。絶対に許さない」
 ライリーは憎しみの中ビル・プレストリーを殺そうと引金を引こうとしたそのとき、キッドがライリーの銃を持っている手を撃った。ライリーの手からは銃が 跳ね飛んだようになり、銃は床に落ちた。
「何するんだキッド。邪魔するな」
 ライリーのその怒りは尋常のものではなかった。何か別の理由がない限り、ここまで憎しみを向けることはなさそうだ。華奢な体から怨念とでも言える怒りが 燃え滾っている。
「バカ野郎、殺してしまったら意味がないだろう。それに証拠もない。落ち着くんだ」
 キッドはライリーの無茶な行動を一蹴する。
「証拠ならある。この男はいつも電子手帳を持っている。そこに数々の今までの悪事の記録が詳細に記されてある」
 それを聞いたビル・プレストリーは思わず条件反射でポケットに手をやってしまった。アイザックはそれを見逃さなかった。
「ボウィ、この男を取り押さえろ」
 アイザックに言われるままにボウィは素早い動きで男の後ろへ回り込み両腕を後ろから掴んだ。アイザックはポケットの中から電子手帳を出してそれを社長に 渡した。社長は半信半疑でそれを開くと、その 内容に驚きを隠せなかった。
「言っただろう。こいつが最初から犯人だって」
 ライリーは羽交い絞めにされているビル・プレストリーに向って思いっ切り頬を引っぱたいてやった。唇をかみ締め、悔しさと悲しさと腹立しさが入り交じっ た涙が目に一杯溢れていた。
 そして落ちた銃を再び構え、ビル・プレストリーに向けたとき、キッドが肩に手を置いて優しく声を掛ける。
「何かよっぽどの理由があるのかもしれないが、そんな事をしても無駄さ」
 ライリーは我慢できず思わずキッドに抱きついて思いっ切り泣き叫んだ。まるでそれはか弱い女性の様だった。
 お町も、ボウィも、アイザック もさっきまでキッドが同性愛者だどうだとからかっていたが、ライリーの辛そうな様子に何か訳ありだと思って何も言えなかった。
 沈黙の中、自分の泣き声だけが響いていることにライリーは突然はっとすると、慌ててキッドから離れた。
 誰もがライリーの様子に気を取られてたとき、ビル・プレストリーはボウィの足を思いっ切り踏んで隙を作り、そしてボウィを突き飛ばした。隠し持っていた 銃を胸元から取り出し、その場を混乱させるために容赦なく無造作に撃った。
 皆が逃げ惑った隙をついてビル・プレストリーはするりとその部屋から逃げていった。
「皆、大丈夫か」
 アイザックが声を掛けるが、ジェフリーが悲痛な声でライリーの名前を叫んだ。
 一同ライリーを見たとたん血の気が引く。胸を撃たれ赤い血がにじみ出て震えるように立っていた。
「ライリー!」
 キッドの叫びと同時にライリーは崩れるように膝をがくんと床につけ倒れてしまう。ジェフリーはライリーに駆け寄り体を支えてやる。そして社長が救急車の 手配をしようとデスクの 電話に走りより慌てていた。
「お町、ボウィ、アイツを追い掛けるぞ」
 アイザックが叫ぶとバタバタと足音があっという間に遠のいていった。
「キッド……」
 か細い声でライリーは口から血を流しながら必死にキッドを求める。
 ジェフリーが側に来てくれと悲願でキッドを見つめた。
 恐る恐るキッドは近寄り、ジェフリーの代わりにライリーを抱え起こしてやった。
「今病院へ連れていってやるから」
 キッドが安心させようと笑みを見せるが、ライリーは首を微かに横に振った。
「僕…… もうダメみたい」
「馬鹿、そんなことがあるもんか。大丈夫さ」
 キッドは励まそうと必死だった。キッドの気遣いに精一杯ライリーは苦しさの中で微笑んで応えていた。キッドに抱いて貰っているのが幸せと言わんばかりに この時ばかりはその気持ちを瞳に映す。
「キッド、本当はずっとあなたの事が好きだったの。あなたに会えてそして名前を呼んで貰えてよかった。これで思い残す事はない」
「バカ野郎、なんてこといってるんだ。大丈夫だからそんな事言うな」
「それじゃ、なんでも言うこと聞いてくれる」
「ああ、なんでも聞いてやるよ」
「キスして」
 キッドは面食らった。こういう状況でこういう事言われてどうして良いかわからない。しかしライリーの息はどんどん絶えていきそうだった。困惑するキッド にライリーは弱々しくも笑っていた。
「冗談だよ。気にしないで。でも思いを伝えられただけでも僕は嬉しい。ずっと好きだったキッドのこと。あなたが早打ち大会で優勝して僕が花束を持っていっ たんだ。覚えてる? キッドとってもかっこよかった。本当に憧れた。でもキッドは見向きもしてくれなかったけど。でも今はこうやってあなたの腕の中にいる の がとても幸せ」
 ライリーは突然激しく咳込み、その拍子に血を吐いてしまった。
「ライリーしっかりしろ。しっかりするんだ」
「キッド一度あなたとデートしたかった」
 ライリーが微笑みながらそう言った時ライリーは息耐えてしまった。
「ライリー、ライリー。デートでもなんでもしてやるから、頼むから行くな」
 そしてキッドはライリーにキスをしてやった。それがライリーを生き返らせるかとでもいうように。
「くそ!ライリー」

 ジェフリーが悲痛な表情でキッドの側に寄った。
「キッド、ありがとう。ライリーはこれで思い残す事がないだろう。彼女も最後に君に抱かれて嬉しかったと思う」
 キッドは耳を疑った。
「彼女って、ライリーは女なのか」
 ジェフリーは頷いた。
「じゃ、なぜ男のふりしてたんだ」
「ビル・プレストリーはライリーの父親の会社を倒産に追いやった。そして彼女の父親は思いつめられて自殺し、彼女もまた不運なことにビル・プレストリーに 抗議したせいで襲われてしまったん だ」
「襲われたって、もしかして」
「ああそうだ、ライリーは辛かったんだ。だから男になろうと決心した。私は彼女の父親の友達なんだ。ライリーは敵が取りたくて私にビル・プレストリーの悪 事の証拠を探す手伝いを頼んだんだ。しかし私の上司がビル・プレストリーとつるんでいたとは知らなかった。そのために今度は私が濡衣をかけられた。だから ライリーは責任を感じて私を助けようとしてたんだ」
 キッドはあまりにも衝撃な話に心臓が張り裂けそうになった。ぎゅっと唇をかみ締め悔しさを募らせる。
「ライリーは言ってたよ。とっても素敵な人に恋をしたけど振り向いてもくれなくて、それなら一層のこと彼みたいになって友達になり側に居たいって」
 キッドはやっと思い出した。優勝したときに白いドレスを着た女の子から花束を貰ったこと。
「ライリー、死んじまったらデートもできないじゃないか。それに最初から女だって言えよ。バカ野郎!」
 キッドは答えぬライリーを愛しく抱きしめてやった。

 ビル・プレストリーはあっけなく三人につかまった。ボウィは足を踏まれたのが腹立って思いっ切りパンチを腹にお見舞いした。動けなくなったビル・プレストリーは観念したのかその場にうずくまっていた。
 社長の命令で警備員達が数人駆けつけると、ビル・プレストリーは押さえつけられた。
 そこへキッドもコツコツとブーツのヒールを鳴らしながらやってきた。
 キッド はビル・プレストリーにいきなり銃を向ける。
「キッド、やめるんだ」
 アイザックの声などお構いなしに、キッドはビル・プレストリーの両腕、両足それぞれ一発づつ無表情で打ち込んでやった。
「ライリーの苦しみはこんなもんじゃない。一生罪を償え」
 そう言って唾を顔に吐きつけた。

 J9基地に戻り、キッドからライリーの真実 を聞かされ、皆、追悼の意を送る。
「女だったなんて。だったらすごい美人だったじゃないの。てっきり美少年だと思ってたわ」
 お町がやるせない気持ちで目をうるませていた。
「なんだ、俺ちゃんも女だって知っていたらデートでもなんでもしたのに」
 ボウィも辛い表情が隠せない。
「見掛けだけで決めつけるな…… かライリーの言っていた言葉が今理解できる」
 アイザックも女だと見抜けなかった事が残念だった。早く気が付いてたらもっと違った結果になっていたのではと悔やむ。
「見かけだけで判断するのは危険か。全くその通りだったぜ」
 ライリーの見つめる熱い目をそっと思い出しもっと早く気が付いていれば自分も恋をしていたのだろうかと、キッドは宇宙の暗い闇の星々を遠めに窓から見て いた。


 見掛けだけの判断が時には大きく誤解を招く。先に真実わかっていたら何かが変わっていたのだろうか。それでも夜空の星々はいつもと変わらぬ輝きでやはり それもただの見せ掛けか。何を思うのかキッド。悲しみ乗り越えまた明日を行く。

おわり


『見せかけの輝き』イメージ画像は
Poo様から頂きました。
素敵な絵をありがとうございます。


イメージ画像


ライリーのイメージ画像を わたる様から頂きました。
ありがとうございます。


※画像の著作権は作者に帰属します。

小説を読まれてイメージ画像が湧けば是非お送り下さい。

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