キャシー・ルーの思い

はじめ に
キャシー・ルーと佐馬のエピソードを本編でもう少し描いて欲 しかったと思うと勝手に自分で話を創ってしまいました。勝手に想像してますので不快に思われる方は恐れ入りますがご遠慮お願いいたします。


  父も母もいないあたいに身内と呼べるのは兄だけだった。でも兄とも子供の頃
別々に預けられたせいで一緒には暮らせなかったけどそれでも兄とあたいは仲の良い兄妹だった。兄とは中々会えなかったけど、いつも連絡をくれてあたいの事 心配してくれたっけ。あたいには自慢の兄だった。

  いつの頃か気が付いたらあたいは女の子らしいというよりも男まさりのように活発に駆け回っていたっけ。しっかりしなければいけないといつも思っていたら自 然とそうなったのかもしれない。仕事もトラックの運転手という自分では結構かっこいい職業についたなって思う。か細いあたいの腕であんな大きなトラックを 運転できるのは自分でも気分が良かった。新鮮が勝負の魚を運んでたからついつい力が入ってぶっ飛ばしてたっけ。でも仕事を成し遂げたときのあの快感、いつ 味わってもいいものだった。

  運転しながらも兄の事考えてた事もあった。こんな物騒な世の中兄は命を張って自分の信じるがままに突き進んでいたっけ。本当はそういう事が似合わなかった 兄だったけど。だからいつも手紙を貰う度に兄は必ずあたいに言ってた『私が殺されても誰も恨むんじゃない』って。兄が殺される訳がないと信じてたけどそれ でも心配には変りなかった。兄が殺されるなんて考えたくもなかったし、そんな事ないと信じていた。だから最初は兄から『誰も恨むな』と言われてもよくわか らなかった。何度も言われるうちに兄はいつも死を覚悟していたのが分かった。一年に一回くらいしか兄と会えなかったけど会える度に兄の無事が確認できて ほっとしてたっけ。そしていつの頃からかあたいも兄の死を覚悟しないといけない時がくるなんて思い始めた。だから兄がいつも言っていた『誰も恨むな』とい う言葉忘れたことなかった。

  また兄と会う事ができたあの日。兄はいつものような元気な姿ではなかったように思えた。どこか何かを考えて思い詰めている様子だった。でもあたいは久し振 りに兄に会えて嬉しかった。だから早く仕事を終えて兄とゆっくり話したかった。つい無理をしてトラックを飛ばしすぎて前から来たバイク二台とぶつかってし まった。そしてそのうちの一人に怪我をさせてしまった。幸い大したことにはならなかったけど恨まれて当然のあたいを責める事もなく許してくれて助かった。 でもその男性が兄の命を奪いそして私の運命の人だなんてその時は思わなかった。

  仕事を終えて兄の元に駆け付けたあの時、兄はもう虫の息だった。『誰も恨むな』と一言言って兄は息絶えた。覚悟していた事が現実になったあの時、実際どう していいかわからなくなった。たった一人の身内を失ったあの瞬間、本当に殺した相手を憎まない事なんてできるんだろうかと思えた。兄が死ななければならな かった理由は後から知ったが、殺した相手も見逃そうとしていた事も後から知った。でも兄はそれが許せなかったんだろう。掟を破り兄自身自ら成敗したかった んだと後で気が付いた。それが兄の生き方だったんだと思えた。

  あの時、あの人は責任を取ろうとあたいに再び会う約束をした。そして約束の場所に彼は居た。悲しそうな目で鳩を見ていたっけ。鳩に餌を与える彼の姿を見て いたら不思議と悪い人じゃないと思えた。
「あんたいい人だね」
そう言ったら彼は驚いていた。

  兄の『誰も恨むんじゃない』という言葉の意味があのとき初めてわかった。あたいは彼の目を見たとき彼を恨むことなんてできなかった。彼も責任を感じてあた いに命を捧げようとしていた覚悟の様子だった。だからあたいは決めたんだ。恨む事はしないかわりにもっとこの人の事を知ろうって。佐馬という人物がどうい う人なのか知ることがあたいも彼も救われるんじゃないかって思えた。

  佐馬は最初責任を感じてあたいと会ってたんだろうけど、気が付けばあたいは佐馬の事が気になっていた。佐馬って自分の事を隠すタイプだと思ったけど結構恥 ずかしがりやで自分の思うように表現できない人だって気がついた。強がっている感じだけど寂しがりやだったし、あたいが積極的に話せばどこか嬉しそうに照 れた感じで答えてくれた。

  佐馬と会う度にあたいの事好きでいてくれたらっていつしか思うようになった。佐馬ったらはっきりと自分の気持ちを言わないからあたいは我慢できなくてつい 自分からキスをしてしまった。佐馬ったらびっくりしてたけど顔を赤らめて私の事見つめて見せた照れた表情は今でも忘れられない。

あたい佐馬が好き。こんな気持ちになったのは生まれて初めて。今まで男に負けるもんかと思って仕事してきたから自分が女だったんだって気づいたのもびっく りだったけど、佐馬の事を思ってる時がすごく幸せだった。だから益々元気が出てきてなんでもやろうって力が自然と湧いてきた。

  だけどどんどん戦争が激しくなって佐馬も危険な目に合うことが多くなった時すごく心配だった。でも佐馬は強いから殺られる訳はないと信じていた。そしてあ たいもバクシンバードに乗り込んで手伝いが出来るようになったとき、佐馬の近くに居られる事が嬉しかった。佐馬や他の皆が命懸けで戦っている中、あたいも 負けたくないと思った。料理や掃除、そしてけが人の介抱、あたいも出来る限り一生懸命やった。佐馬の側にいられるのなら辛い事なんて何もなかった。

  ある日、佐馬がバクシンガーで敵をやっつけて帰ってきたとき、佐馬はどこか疲れてそうだった。心配で部屋に戻っていく佐馬の後をこっそりついていったら佐 馬に見つかって笑われた。『大丈夫だから』ってそう笑ってあたいを抱きしめてくれた。そしてその日あたいは初めて佐馬と一つになった。最初は戸惑ったけ ど、でも佐馬に抱かれたいと思う自分がいたのにも気がついた。暫く見つめあって真剣な佐馬の目をみていたら宇宙空間でふわりと漂っているような気分だっ た。佐馬が優しく唇にキスをしてくれてあたいは目を閉じた。そしたらベッドに二人横たわって佐馬はあたいの首筋にもキスをしていた。自分ではわからなかっ たけど震えていたみたいで『怖がらなくてもいいんだ。拙者キャシー・ルーを愛しているから』そう優しく言ってくれた。その後無我夢中で佐馬を抱きしめた。 そして佐馬と一つになったとき痛かったけどすごく嬉しかった。佐馬と一つになれる事がこんなにも幸せだなんて思った事がないほど嬉しかった。佐馬はあの後 疲れたのかすぐに寝てしまったけどあたいはこっそりと部屋を後にした。

  佐馬とあの後どんな顔をして会えばいいのかわかんなかったけど『起きたら君が居なくてがっかりだった』と佐馬に言われたら自分は愛されてるんだって思えて 自然と笑ってしまった。佐馬とこれから一緒に暮らして行けたらどんなにいいだろうってそう思えた。

  佐馬と暮らすことを夢見てたあの日、ディーゴが自ら犠牲になり宇宙に散っていった。あの日からあたいは佐馬の事が心配で仕方なかった。佐馬の姿を見るまで は安心できない毎日だった。回りに誰がいようと佐馬の姿を見つけたらあたいはなりふり構わず抱きつくようになった。『佐馬お願い生きて』何度と心の中で叫 んでいた。

  サンタビーダ要塞についたとき、あたいはすごく安心した。全て人工で創られてるのに本物みたいな景色を見ていたらここなら安全だって思えた。桜の木や小川 もあってここで佐馬と暮らせたらどんなにいいだろうって思ってた。佐馬も桜の木の下で寝転がって同じこと考えていたと思う。

  あたいあの時すごく幸せだったんだよ、佐馬。だってお腹には佐馬の子供もいたんだ。佐馬を驚かしてやろうと思ってたのに、まさか、まさか、あんな事になる なんて。あんたが殺られた姿が突然目に飛込んで来た時、あたい、あたい気が狂いそうだった。
「みっともないぜ」
そう一言言って倒れた佐馬を見て嘘だと思った。嘘であって欲しいと思ったの!

「キャシー・ルー」
それが佐馬の最後の言葉だった。

佐馬、あたいどうしたらいいの。本当に一人ぼっちになっちゃったよ。愛しているの。佐馬、愛しているの心から。

「キャシー・ルー、泣いてちゃ折角の美人が台無しだぜ。流れ者の拙者のことなんか忘れてしっかり強く生きるんだ」

佐馬、馬鹿、忘れられる訳がないでしょ。忘れることなんでできないよ。佐馬、これからもずっとあんたのこと愛しているんだから。

佐馬はあたいの側からいなくなった。あたいはこれからどうすればいいのか全然わからない。でも強く生きなくちゃいけないことだけはわかる。佐馬のベビーの ためにも。でも今は佐馬の事を考えて涙がでなくなるまで思いっ切り泣かせて。佐馬、あんたに会えてあたい本当に幸せだった。佐馬、あたいを愛してくれてあ りがとう。

「キャシー・ルー、拙者も幸せだった」

佐馬もきっとそう言ったに違いないね。

「佐馬!」

あたいは大きな声でそう呼んで暫く泣いた。そしてスリーJやジャッキー、ファンファンと一緒にバクシンバードでその場を後にした。窓からサンタビーダ要塞 がどんどん小さくなっていったが涙でその様子もよく見えなかった。



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