はじめ
に
この話は本編のバクシンガーとは全く関係がございません。勝手に創作しております。このような二次小説が不快に感じられる方は
ご遠慮お願いします。 |
ジャッキー、ファンファン、スリーJとキャシー・ルーはバクシンバードでサンタビーダ要塞を脱出した。 皆目に涙をためて肩を震わしていた。 「兄ちゃん、あたいたちこれからどうすればいいの。ビリーさん達みんな居なくなっちゃった。あたい悔しいよ」 ファンファンはジャッキーに抱きつき嘆いていた。ジャッキーは何も言えずにその場で立ちすくむだけだった。 キャシー・ルーもまた佐馬の事を考えながら窓から宇宙を見つめていた。涙は一行に止まらなかった。泣きすぎからくる嗚咽もあったが子供を身篭っているため につわりも激しくなった。 「キャシーさん、大丈夫ですか」 スリーJは心配した。 キャシー・ルーは床に伏せながら嘔吐を堪えようと手を口にあてた。 「大丈夫。ただの妊娠だから」 キャシー・ルーがさらりと言うとそれを聞いて皆びっくりした。 「あたいのお腹には佐馬の子供がいるの」 キャシー・ルーは付け加えて大丈夫というように立ち上がった。皆驚きの表情で一瞬何も言えなかったがファンファンが近づいてキャシー・ルーを抱きしめてあ げた。それは祝福と同時に佐馬を 失った悲しみを和らげてあげるようでもあった。 キャシー・ルーは優しくファンファンに抱きしめられてまた再び泣き出してしまった。 「これからどこへ行ったらいいんでしょう」 スリーJが言った。 「オフス星」 そう答えたのはキャシー・ルーだった。 「オフス星に行ってリリーにビリーの事伝えなきゃいけないわ。悲しい事だけど彼女は今もビリーの帰りを待っていると思う。それにまだ怪我人も居るしオフス 星なら充分な手当てが受けられるわ」 キャシー・ルーがそう言うと一同はオフス星にまず向かった。 烈風隊の敗北で戦争は終結へと一度に加速した。まだまだ混乱は続くがこれ以上のむやみな争いは一先ず落ち着いた。 皆がバクシンバードの中を見渡すとまだ烈風隊が笑ってそこに居るかのような錯覚に陥いる程彼らが死んでしまった事が受け入れられなかった。 オフス星に到着後、スリーJはリリーをバクシンバードへと連れてきた。あまりにも辛くてスリーJは何も言えず、ただ皆が待っているからとそう言って連れて きた。 リリーはビリーが帰って来たと思い嬉しくてたまらない様子でバクシンバードが視界に飛込むと一目散にかけていった。 「ビリーさん」 そう叫ぶが艦の中はがらんとしていた。 「ビリーさん、どこなの。どこにいるの」 探しまわるが誰もいない。そこへキャシー・ルーが赤い目をして悲しそうな顔付きで現れた。涙が渇れる程泣いたはずなのに止まることを知らずにリリーの顔が ぼやけてはっきりと見えなかった。 「キャシー・ルー」 そう呼んで駆寄るリリーだがキャシー・ルーの様子がおかしい事にすぐ気が付くと血の気が引く思いだった。 「リリー聞いて。ビリーや佐馬、そしてディーゴにシュテッケン、ライラまで皆、皆・・・」 言葉につまるキャシー・ルーだった。 信じられないとでもいうようにリリーは突然大声を出した。 「嘘よ。そんな事はないわ。だって彼は約束したのよ。必ず迎えに来るって」 リリーは泣き出した。そしてまたビリーを見つけようと艦の中を走ろうとした。その時キャシー・ルーはまたつわりを催して苦しくて床に伏せてしまった。その 様子を心 配してリリーは近づいて彼女の肩に優しく触れた。 キャシー・ルーが妊娠していることを知るとリリーはキャシー・ルーの目を見つめ涙を一杯ためていた。溢れた涙は頬を伝わり流れていった。二人は暫く無言の ままで言葉なくしてお互いの気持ちを理解しあっているようだった。 リリーはビリーの温もりを思い出そうと必死だった。そしてもう抱きしめてあげることも触れる事すらできないと思うとその場に泣き崩れてしまった。 「リリー、あたいも辛いんだ。あんたも辛くて仕方ないと思う。あたい佐馬がいなくなってどうしていいかわかんない。このまま死んで佐馬のとこ ろへ行きたいくらい」 キャシー・ルーが首をうなだれて小さい声で呟くように言った。 「キャシー・ルー。だめよあなたには子供がいる。愛する人の子供がいる。しっかり生きなくっちゃ」 リリーは自分も辛いながらもなんとかキャシー・ルーを励ましたかった。そしてまだキャシー・ルーの方が幸せだと思った。自分にはビリーが残し たものなど何一つなかった。キャシー・ルーのようにビリーの子供がいたならまだ救われたかもしれないと思ってしまった。 スリーJ、ジャッキー、ファンファンは辛い知らせを伝えた後オフス星を後にした。どこに行くこともはっきりと言わないまま去っていった。キャシー・ルーは リリーの誘いもあってリリーと暫く一緒に暮らすことを決めた。お腹に手をあてながら佐馬の残した新しい命が自分の体に宿っていることを愛しんだ。しっかり と生きて産まなければと力強く感じるのだった。 そしてあれから一年が経ち、キャシー・ルーも無事に佐馬の子供を産んだ。それは男の子だった。茂馬之助と命名し、シゲマと呼んだ。※注釈1 烈風隊が散ったあの サンタービーダ要塞はこの一年のうちに復興され殆んど元に戻っていた。戦いで散っていった命を供養するためにキャシー・ルーとリリーは サンタービーダ要塞へ向かった。生まれたばかりのシゲマもつれて。 再びあの桜の木の麓にキャシー・ルーはシゲマをしっかり抱いて立った。あのときの佐馬の姿は時が経ってもはっきりと覚えていた。また涙が溢れて仕方なかっ た。シゲマもそんな母親の気持ちがわかるのか一緒になって大きな声で泣いていた。キャシー・ルーは慌ててシゲマをあやした。 「シゲマ、ごめん。ママが不安にさせたね。ここにはシゲマのパパの思い出が詰まってるの。パパはここで・・・」 そう言いかけると言葉に詰まって黙ってしまった。桜の花びらだけが綺麗にその場で舞い踊っている。キャシー・ルーはその桜を暫く見ていた。桜の花びらはシ ゲマの側までやってきてシゲマに降り注いだ。それは佐馬がシゲマの側に来て祝福しているように感じた。 「佐馬、ほらあんたの息子だよ。あんたに似てかっこいいだろ」 キャシー・ルーはそういうとシゲマを高く空まで届けといわんばかりに抱き上げて微笑んだ。佐馬が目を細めて嬉しそうに微笑んでいる姿が目に浮かぶようだっ た。 リリーは戦いが激しかった場所を人から聞いてそこへ足を踏み入れた。今ではここで戦争があったなどと思えない程復興していた。ビリーの事を考 えながらリリーは暫くその場所を歩いていた。そのとき風が突然吹いて渦をまくようにどこから降ってきたのか桜の花びらが舞った。 「リリーさん来てくれたんですか」 ふとビリーの声が聞こえてくるようだった。 「ビリーさん」 そう呟いてリリーの目の前はぼやけて前がしっかりと見えなくなった。その涙を拭いまたしっかり目の前を見ると町の隅に烈風隊の魂を静めるかのように慰霊碑 がたてられているのが目に映った。 その前まで来て暫くその慰霊碑をリリーは見つめていた。そしてビリーが以前言っていた『星影のララバイ』の歌の歌詞を思いだし精一杯笑みを浮かべるので あった。 「ビリーさん、あなたの分まで私しっかりと生きるわ。そして笑顔も忘れずに。だってそれはあなたが望んだことですものね」 リリーがビリーを思い出しているとまるでビリーが側に居るように感じた。そして側であの優しい笑顔で笑っているように思えるのだった。 ※注釈1 佐馬のモデルとなった原田左之助には息子がいました。名前を原田茂といったのでそこからもじって茂 馬之助と勝手につけました。 |