7創作 銀河旋風ブライガー
by Cocona

『二度の過去』

「まただ」
真夜中にベッドから飛び起き右手で髪を無造作にく しゃっとつかんでどこか苦しそうに暗闇の中どこを見るわけでもなく一点をみつめるキッド。最近はよく昔の事を夢にみてしまう。まだ19歳という若さなのに 今までの経験はそれ以上の歳を迎えた気分だった。若いうちから色々な経験をすると言うことは長い目でみたらありがたい事かもしれないが、あまりにも次々と 起こる目まぐるしい出来事はキッドを時々苦しめた。

地球正規軍の腐敗しきった組織に嫌気をさし無断で脱退 したが、そのため追われる身となりしかも友達であったリッキーにまで理解を得られずに一方通行な決闘を申し込まれそして自分の身を守るためとはいえリッ キーを撃ってしまい殺してしまった。そんなことなど全く望まない事だった。あの場合は仕方ないと自分で何度も言い聞かせ、やらなければ自分が殺られていた と思うことでなんとか割り切るようにした。後にリッキーの妹のソニアと再会して彼女の復讐心でまたあの時の嫌な気持ちが蘇ったが彼女には許して貰おうとは 思わなかった。むしろ憎んで貰っていた方がまだ救いがあった。キッド自身も自分を許せなかった。

今まで何人の人間を殺してきたのだろうかキッドはふと 思った。それにはそれなりの理由があるがこの時世、理由があれば簡単に人を撃って命を奪う事はもう慣れっこになってしまった。今は自分が殺られないように 相手を殺る事が当たり前に思えるようになった。そしてそれはいつも悪人で始末するには充分な理由だった。現実ではそう割切って思えても夢の中ではなぜかそ れが苦痛に感じてしまう。もう終わった事なのに夢の中ではいつも現実に感じ当時の嫌な気持ちがそっくりそのまま蘇ってしまうのがキッドには辛かった。
「もっと違う夢を見られないのか」
そう呟きながらどこか心の底で自分で気が付かない潜在 意識に時々自分を脅かされる事がキッドにはうっとうしかった。そしてもう一つ忘れられない出来事としてある女性の事が時々思い出された。それは科学者の ジャクリーヌの事だった。ジャクリーヌが飼っていたペット、クーガ。ロボとして作り替えたがガリレオ・コネクションに売られるために武器として巨大化して 暴走 してしまい結局はJ9によって倒された。その時に励まそうとキッドは『失ったものの事でクヨクヨするより、しっかりと前を向いて生きるんだ』と言ったが、 予期せぬジャクリーヌからのキスに驚いたものの、しっかりと受け止めた自分がいた。キッド自身どこか忘れられないキスだった。

「あら、お早う、キッド。遅いお目覚めですね」
お町はコーヒーを片手に持ちながらキッドに声をかけ た。
「ああ」
どこか疲れた感じの挨拶をするキッドだった。
「キッド、どっしたの。なんか機嫌悪そうじゃない。昨 晩寝られなかったのか」
ボウィがキッドの態度がおかしかったので不思議そうに 言った。
「いや、なんでもない」
「おや、夜遅くまで一人で何をしてたのかしら」
お町が聞くとキッドは放っといてくれとでも言いたそう にお町を睨んだ。
「はいはい、私には関係ございません。これはかなりご 機嫌斜めですね」
「おいおい、何もお町に八つ当たる事はないぜ。なんか 悩みでもあんのか。俺ちゃんが聞いてやるぜ」
「本当になんでもないんだ。ただの寝不足で疲れている だけなんだ」
キッドのどこか暗い様子にお町もボウィも顔を見合わせ て不思議がった。
「俺、ちょっと気晴らしに出かけてくるぜ。こういう時 はレコードのコレクションでも探した方がいいかもな」
そういってキッドはバイクで出かけて行った。

一人で出かけたものの趣味のレコード集めをする気分で もなかった。どこか気分が晴れない自分に昔ジャクリーヌに言った言葉が思い出された。
「しっかりと前を向いて生きるか・・・自分で言ってお きながら昔の事を考えて落ち込んでいても仕方ないぜ」
そしてキッドは気晴らしに町へ繰り出した。そこであて もなく町を歩いていた。
「そう言えば朝飯食ってなかった」
腹ごなしにカフェに入りコーヒーとクロワッサンを手に いれそれを持ち、食べながらまた町を歩いていた。町の中心には大きなスクリーンがありそこでは宣伝の画像が眩しく目まぐるしく写し出されているのを見つめ ながら残りのクロワッサンを口にほおばった。そしてコーヒーをすすろうと口に持ってきたとき、画面には知っている女性の顔が写し出され驚いてコーヒーの紙 カップを落してしまった。それはジャクリーヌの姿だった。キッドはあの時のキスを思い出した。そしてその場に立ちすくみ暫く動けなくなった。

ジャクリーヌは女性の科学者として著しい活躍をしてい る様子だった。キッドはじっとスクリーンに写し出されるジャクリーヌの姿を見つめていた。キスをされた後、ジャクリーヌはそのまま去っていった。自分に気 があったのかわからないまま、また確かめる事もできないまま、彼女はキッドの前からゆっくりと去っていった。キッドはあの時自然と足が動いて彼女を追い掛 けてしまった。自分でもなぜそうしたのかわからなかったが、あの時はジャクリーヌに知らないうちに惹かれていたと今になって気が付いた。スクリーンに写し 出される彼女は以前よりも美しく見えた。キッドは気分が高まって彼女に急に会いたくなった。そしてスクリーンに写し出された会社の名前を何度も口ずさみな がらすぐにその会社へと足を運んだ。

「ここにジャクリーヌという科学者はいないか」
受付けでそう聞くキッドに対して接した女性はくすっと 笑って答えた。
「あなたも我社の宣伝をみて来られたのですか。ジャク リーヌはモデルのようにきれいですからね。沢山の方があなたのようにここへ現れます」
それを聞いたキッドは面食らった。ジャクリーヌはキッ ドが以前から知っているような人ではなかった。どこかもう手の届かない雲の上の存在になっているように感じた。
「ああ、その通りだ。だが彼女とはちょっとした知り合 いなんだ」
少し落胆した声で言ったので受付の女性はキッドのハン サムな顔と陰りが気持ちを揺さぶられるかのように気になってしまった。
「お知り合いの方なのですか。それならジャクリーヌは ここにはいません。彼女は会社と契約してますが社員ではありませんのでご自身の研究所にいらっしゃいます。でも今は何か用事があると言ってあるところで滞 在されているようですが」
そう言うと受付けの女性はキッドにジャクリーヌの滞在 場所のメモを手渡した。
「彼女はファンも多いですし、警備も厳しいですので会 えるかわかりませんが、あなたのようなハンサムさんならジャクリーヌもきっと放っておけないかもしれませんね。会える事を私も願っておきますね」
キッドは受付の女性に笑顔を見せて礼を言った。そして メモの場所へと急いだ。

メモの場所はアステロイドから少し離れたコロニーだっ た。ウエストJ区のような無法地帯とは違い少しお金がありそうな人が集まってくるような感じを受けた。キッドはそのコロニーに降立ってメモの場所を見つけ ようとした。しかし急に自分が何をやっているのか我に返った。
「今更会いに来たとか言って俺は彼女に一体何を求めて いるんだ」
キッドは暫く考えた。会ってみたい気持ちと今更会って どうするんだという気持ちで葛藤した。しかし今の彼女の姿を一目見てみたかった。会ったときに自分がどうしたいのかわかるような気がした。メモに従ってつ いたところは白い建物があった。それはこじんまりとした昔の木造住宅のようなレトロな感じの建物だった。その建物の中に入るとそこはアートギャラリーと呼 ぶにふさわしい絵画や美術品が飾られていた。そして部屋の隅には大きな白いピアノが置かれていた。中はまばらに人が美術品をみていた。
「一体ここは何の建物なんだ。美術館の一種なのか」
キッドは不思議がった。そしてその中でも一番大きな絵 が飾られている前の椅子に座りじっと絵画を見つめている女性がいた。白いドレスを身にまとい赤いバラの花束を持っていた。それはジャクリーヌだった。彼女 が見つめていた絵は緑の草原を駆け巡る白い馬の絵だった。キッドは声をかけようか迷ったが、彼女の側にはボディガードとみられる男が二人いて少し威圧され た。キッドは時々夢にでてくるジャクリーヌの姿を目の前に見て足がまた勝手に動きそうになったがここは静かに去った方がよいと思えた。キッドにしてみれば 珍しく臆病になっていた。自信過剰のカッコ付けの男なのになぜかジャクリーヌを目の前におどおどしている自分を感じていた。キッドが去ろうとするよりも前 にジャクリーヌが椅子から立ち上がり後ろを振り返った。そしてジャクリーヌの方が先にキッドを見つけた。
「キッド」
久し振りにみる懐かしい顔にジャクリーヌは驚きを隠せ なかった。キッドはジャクリーヌがまだ自分の事を覚えていたということが少し嬉しく思えた。彼女が近づいてくるとキッドは少し胸がドキドキした。そしてや はりここでもあの時のキスが思い出されて仕方なかった。

「久し振りだな。ジャクリーヌ。元気にしてたかい」
「キッド、どうしてあなたがここに。でもまた会うこと ができて嬉しいわ」
ジャクリーヌは微笑んだ。その微笑みはキッドを明るく 照らすような感じだった。二人は暫く無言で見つめあっていた。ジャクリーヌにとってキッドと会うのは巨大化したあのクーガの事件が思い出された。
「あの時、あなたに救われたわ。本当にありがとう。今 ではすっかり立ち直ったのよ。仕事も順調で頑張ってるわ。あなたはどう? そして他の皆さんもお元気かしら」
「ああ、相変わらず元気でやってるぜ。皆も忙しくして いる」
二人は他愛もない会話をかわしていた。キッドは久し振 りにジャクリーヌと再会してあの時の追い掛けた気持ちが蘇るのを感じた。キッドはどこかジャクリーヌに惹かれている自分を認識していた。
「君こそここで何をしているんだい」
「絵をみてたの。ここにある絵がとても好きなの」
ジャクリーヌが好きだと言った絵は草原を走る馬の絵だ とキッドは思った。その絵はとても力強く描かれていた。今にも絵から馬が飛び出しそうにみえた。
「素敵な絵だ。これを描いた画家の力強さがよくでてい る」
ジャクリーヌもキッドが自分の好きな絵の素晴らしさを 分かってくれたのが嬉しかった。

二人はその建物を出て少し肩を並べて歩いた。ジャク リーヌはキッドにこの辺りの観光名所を説明していた。
「でもまさかあなたとまた会うなんて思わなかった。あ の時、あなたに会うことはもうないと思っていたわ。だから私大胆になれたの」
ジャクリーヌが意味した事はキスの事だった。キッドの 心臓は一気に高まり激しく脈打った。
「ああ、あの時君が去って行って俺は・・・」
そう言いかけたがキッドはその後どう言葉を繋げてよい かわからなくなった。今更昔の事をとやかくいっても仕方ない事もわかっていた。ジャクリーヌは暫く黙っていたが我慢できなくて話し出した。
「あのときもし私があなたの側にいたらあなたはどうし ていたかしら」
キッドはこの質問に戸惑った。ジャクリーヌが今何を考 えているのかわからなかった。でも今までの気持ちを吐き出すごとくキッドは質問に答えた。
「きっと君に惚れていたよ」
それを聞いてジャクリーヌはドキッとしてキッドを見つ めた。キッドもジャクリーヌの視線から目が離せなかった。今度はキッドからジャクリーヌにキスをした。それは前回のような唇を重ねるだけの優しいキスでは なかった。キッドは今までのジャクリーヌに抱いていた思いをキスで表した。ジャクリーヌの目からはなぜか涙がこぼれていた。キッドはそれに気が付きジャク リーヌからそっと離れた。
「ごめん。君を泣かせるつもりはなかった。謝るよ」
「違うのキッド。私もあなたの事が好きなの。だけどあ の時あなたから離れてもう二度と会うことはないと思っていた。だから今こうやって出会ってあなたにキスをされて私、私・・・」
ジャクリーヌはどこか悲しそうに話した。キッドはジャ クリーヌの涙が理解できなかった。また再会をして今度は自分からキスをしてしまいキッドは以前にもましてどこか苦しさが募った気分になった。ジャクリーヌ はキッドが自分の涙で気分を悪くしたのではと心配になった。
「キッド、あの時あなたから去って私はとても辛かっ た。会うことがないのなら私はあんな事をあなたにしてはいけなかったのかもしれない。でもあの時は気持ちを押えられなかった。私あなたの側に居たらよかっ たって今後悔してしまったの。あなたに今キスをされて嬉しかったのは事実なの。でも・・・」
キッドはジャクリーヌが何を考えているのかはっきりと 知りたかった。
「でも、なんだい。何か気にかかることでもあるのか い。俺、今からでも君の側にいちゃいけないのかい」
ジャクリーヌは驚いた。キッドが自分に本気になってい る事が信じられなかった。
「キッド、私の事を・・・」
「ああ、俺君の事を夢で見ては思い出していた。そして あの時のキスが忘れられなかった。あの時すでに君に惹かれていた」
「私、私・・・」
そう言ってジャクリーヌはキッドに抱きついた。キッド はしっかりと受け止めたが、ジャクリーヌが自分の気持ちを受け止めてくれたのかまだはっきりとわからなかった。
「迷惑なのか」
キッドがそう言うとジャクリーヌは首を横に振った。
「私もあなたの側に居たい」
キッドは嬉しかった。ジャクリーヌからそう言われて やっと気分が晴れる思いだった。そうして二人はまた会う約束をしてキッドは去っていった。

J9基地に戻るとキッドの顔が明るく浮かれてたのでボ ウィとお町は気になった。
「ちょっとキッド、朝の態度と全く違うじゃない。朝は 八つ当たってくれちゃったけど、なんか良いことでもあったの」
「そうそう、お町の言う通り。一体どうしたの。朝と偉 い違いの態度。俺ちゃんにも説明してよ」
二人がそう言うとキッドはただとぼけていた。
「俺朝機嫌悪かったか?」
キッドの様子に二人は顔を見合わせて不思議そうにして いた。
「きっといいレコードが見つかったのね」
お町がボウィに耳打した。
「キッドの事だから幻のコレクションでもみつけたんだ よ。単純な奴だね〜」

「皆すぐに集まれ。ポンチョからコール信号だ」
アイザックが言うと皆はすぐに大きな画面の前に集まっ た。
「ポンチョ、今回の依頼はなんだ」
「アイザックさん、今回は脱走の手伝いの話でゲス」
「脱走の手伝い?!」
一同声を揃えて言った。
「そうでゲス。政府にたてついた過激派リベラル思想家 のリーダーが捕まっているんですが、この救出を手伝って欲しいんでゲス」
「ちょっと待ってよ、罪を犯した人でしょ。いくらお金 をもらっても脱獄の手伝いはないんじゃないの」
お町が言った。
「そうだよ、そんなことJ9ができる訳ないじゃん」
ボウィも嫌な顔をした。
「元々テロとか起すメンバーだろ。それじゃ悪党と一緒 だぜ」
キッドも乗る気にはなれなかった。
「ポンチョ、J9にそのような事を頼むのは何か訳でも あるのか」
アイザックはにらみをきかせて何か訳がありそうな事を 感づいていた。
「そうなんでゲス、このリーダーというのが実は濡衣で 捕まっているんです。元々この思想家達は過激派ではなく、後から加わったメンバーがそうしただけで至ってこの方達は平和を好んでいるんでゲス。それで解散 をしようとしたときに一部の人間がテロを仕掛けたために沢山の命が奪われてしまってこの方が捕まったでゲス。それを是非とも救いたくてこのリーダーの妹さ んが私に依頼してきたでゲス。このまま捕まったままだといずれ死刑を免れないでゲス。依頼金は400万ボールでゲス。」
それを聞いて4人は考え込んだ。
「じゃ、事件に関係ないのにそいつは捕まっちまったっ てことか。それなら助けてやらないとな。犯していない罪で死刑はちょっとかわいそうだぜ。OK、俺乗ったぜ」
キッドが言った。それを聞いて残りの3人も親指を立て 『イエ〜イ』と態度で依頼を受けることを示した。

今回の依頼の計画は、思想家のリーダーが輸送されると きがチャンスだということでこの時に救い出す計画を練った。ブライガーで待ち伏せをして、警察の輸送機を脅し簡単に救い出す事ができた。
「うわぁ〜なんて簡単なお仕事。こんなんで本当によい の。俺ちゃんの腕も何も見せられなかったぜ」
「ボウィさん、たまには楽してもいいじゃん。これでい いのいいの」
キッドもどこか楽しそうに浮かれていた。
「いやだキッド、あなたやっぱりおかしいわ。どこか浮 かれすぎよ」
お町はキッドの態度が非常に明るくなっているのでどこ か疑問を持った。キッドは皆に言おうかと思ったがどうせからかわれるのが落ちだったので暫くはジャクリーヌの事を黙っておくことにした。そしてキッドの頭 の中では次のジャクリーヌとのデートが楽しみで仕方なかった。

「J9の皆さん、救って頂いてありがとうございます。 まさか噂のJ9の皆さんに救って頂けるなんて思いもよりませんでした。皆さんの噂は私達の間でも良くお伺いしてます」
そうお礼を言ったのはリベラル思想家のリーダー、ブラ イアンだった。
「いいってことだぜ。罪もないのに死刑は理不尽だ。礼 を言うなら俺達に依頼をしてきた妹さんに言うんだな」
キッドが言った。ブライアンはキッドの顔をみてにこり と微笑んだ。そしてブライアンはこれから警察の届かないところに逃げると言って去って行った。

「今回の仕事は楽だったわね。これで一件落着ね」
お町が言った。
「あ、今何時だ」
キッドが慌てて時計を見た。
「いけねぇ〜、もうこんな時間だ」
「おいおい、キッドさん、何を慌ててるんだい」
ボウィが聞き終わらない間にキッドは急いで部屋から出 ていってバイクに乗りJ9基地を去っていった。お町もボウィもキッドのおかしな態度に不思議でたまらなかった。
「ねえ、最近キッドっておかしいと思わない?」
「そうそう、機嫌が悪いと思ったら気分よくなって浮か れいるし、そんでもって意味不明の行動でしょ。これは絶対になんかあるぜ。まさか女とデートじゃないでしょうね。俺ちゃんよりも早く彼女ができるなんてそ れは許さないぜ」
「まさか、キッドに女性?そんなの考えられない。だっ てあの人、銃とロックとギター命でしょ。もしかしたらそれ関係の事なんじゃないの」
二人はあれやこれやと話していた。

キッドは慌ててバイクを飛ばし、あの白い家目指して ジャクリーヌに会いに行った。花でも持って行きたかったが買ってる暇はなさそうだった。ただでさえ時間に遅れるのが決定的だった。
「くそ〜初めてのデートで遅刻かよ。まいったぜ」
そして待ち合わせの場所についたとき、ジャクリーヌの 姿は見当たらなかった。遅れた時間は15分だった。キッドは焦った
「まさかもう帰ったのか」
辺りを見回してみたがジャクリーヌの姿はそこにはな かった。ジャクリーヌが遅れて来るかもと思いキッドは待った。ひたすら待った。しかしジャクリーヌは現れなかった。もう2時間待っただろうか。キッドは諦 めた。何かが起こったのではと心配になった。
「連絡先聞いとけばよかったぜ」

J9基地に戻って来たときキッドはしょんぼりとしてい た。その姿を見てお町もボウィもまただよという顔をしていた。
「ちょっと、キッド!最近おかしいわよ。感情の起伏が 激しすぎるわよ」
「そうだぜ、一体何があったんだよ。俺ちゃん達に薄情 しろよ」
キッドは何も話したくなかった。やはりどこかまた機嫌 が悪くなってしまっていた。お町もボウィももう勝手にしろという感じでキッドを呆れて見放した。キッドは自分の部屋にこもりベッドに横たわり天井を見つめ ていた。もしかしたらジャクリーヌと出会ったのは夢だったのかとさえ思えてならなかった。

「キッド、緊急信号よ。早く指令室にいらっしゃい。皆 もう集まってるわよ」
お町はキッドに知らせた。キッドはこんなときになんの 用だと思って渋々と指令室に向った。スクリーンにはブライアンが映っていた。
「J9の皆さん、再びすみません。私からの依頼です。 私は今アステロイドで指名手配され簡単にはここから出られそうにもありません。そこで再び逃亡の手伝いをして頂きたいのです」
キッドはスクリーンから女性の姿を見て驚いた。なんと そこにはジャクリーヌの姿があった。
「ジャクリーヌ」
キッドは叫んだ。
「俺ちゃんもさっきビックリして叫んだんだよ。巨大な クーガーの事件以来だよな」
「そうそう。大きなクーガのロボットを作った科学者 だった わね」
キッドは信じられなかった。ジャクリーヌがなぜブライ アンと一緒にいるのか理解ができなかった。ジャクリーヌもキッドの姿を見て申し訳なさそうにその場で立ってる様子だった。
「一体どうなってるんだ!」
キッドは怒ったような驚きをした。その言葉はジャク リーヌだけに届いていた。
「わかりました。あなたを安全なところへお届けできる ように援助しましょう」
アイザックは依頼を引き受けた。そしてブライアンとの 通信を切った。
「皆、聞いた通りだ。ブライアンを安全なところへ誘導 する。行くぞ」
アイザックはマントをひるがえし、その後をお町とボ ウィがついていった。キッドも皆から遅れてブライサンダーに乗り込んだ。
「ジャクリーヌって言ったら、キッドの唇を奪った人 だったよな」
ボウィが操縦しながらキッドにふっていた。キッドは何 も言わなかった。ボウィは言ってはいけない事だったと思って焦った。
「俺ちゃん、別に悪気はなかったんだ。いや〜まさかま たジャクリーヌに会えるとはね。しかもリベラル思想家が恋人だなんて」
「そうよね、あの時キッドの側にいたら今頃はキッドの 彼女だったかもね」
お町がそういうとキッドは機嫌が悪くなった。
「うるさいな、そんなことどうでもいいぜ」
「あちゃ〜、メンゴメンゴ」
お町もちょっと言いすぎたかと思った。アイザックは キッドに何かあったと睨んでいた。

「ここだぜブライアンが隠れている場所は」
ボウィがブライサンダーを人影のない建物の近くに止め るとその音を聞いたのかブライアンとジャクリーヌが近寄ってきた。キッドはジャクリーヌを見つめていた。説明してくれとでも言わんばかりの顔だった。キッ ド以外の三人はブライアンについて建物の中へと入っていった。キッドとジャクリーヌはその場に残った。
「ブライアンは恋人だったのか」
キッドはジャクリーヌを見つめた。
「キッド、ごめんなさい」
「なぜだ。なぜ何も言わなかったんだ」
「私ずっとあなたの事が好きだった。でも忘れようと必 死だったの。そしてその後でブライアンに会って恋に落ちたわ。でもブライアンは捕まってしまって死刑を宣告されてしまった。私は辛かったの。そしてあなた とまた再会して、あなたも私の事を好きだったと言ってくれたとき私は心が揺れたの。あの時流した涙はこの事だったの。あなたにはっきりと言うべきだった。 でもできなかったの。同時に二人の男性を愛してしまって私はどうしてよいのかわからなくなってしまった。本当にごめんなさい」
キッドはショックだった。自分が助けた人物がジャク リーヌの恋人だったと知って何を考えてよいのか頭で整理がつかなかった。キッドはなんとか明確な答を出そうと考えた。しかし考えれば考える程頭が真っ白に なるだけだった。
「キッド、あなたが今私をここから連れて行ってくれれ ば・・・」
ジャクリーヌがそう言いかけたときにブライアンが現れ た。
「ジャクリーヌ、何をしているんだい」
そして側によりジャクリーヌの肩を抱いた。キッドはそ の二人の様子を見るのが辛かった。
「キッドとか言ったね。本当に助けてくれてありがと う。私はジャクリーヌと結婚の約束をしていた。まさかこうやって再び彼女に会えるとは思わなかった。キッド、君たちのお陰だ。本当に感謝しているよ」
「ああ」
キッドは精一杯答えた。ブライアンははにかんだ顔をし て照れていたがジャクリーヌは悲しい目をしてキッドを見ていた。
「ジャクリーヌ、これからはあの僕が描いた絵のように 自由に力強く二人で生きよう」
ブライアンが絵の事を話したときキッドは気が付いた。 あそこに飾られていた絵はブライアンが描いたものだった。だからジャクリーヌはブライアンを思って絵を見つめていたんだと思った。そしてキッドの頭にはど うすべきなのか答が浮かんだ。
「よぉ、お二人さん。幸せになれよ。ブライアン、あん たならジャクリーヌを必ず幸せにできるぜ」
キッドがそういうとブライアンは握手を求めた。キッド はしっかりとブライアンの手を握り固く握手をした。ジャクリーヌは二人の様子をじっとみていた。

J9のメンバーがブライアン達を護衛して安全なところ へと誘導した。お陰で指名手配をされていた地域から脱出できた。ブライサンダーの中の大きなスクリーンにはブライアンとジャクリーヌが映っていた。ブライ アンは再びお礼を言った。そしてジャクリーヌはキッドを見つめていた。
「J9の皆さん、私の時、そして恋人のブライアンまで 助けて頂いて本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません」
ジャクリーンがそういうとキッドは答えた。
「しっかりと前を向いて生きるんだ」
キッドは親指を立てて『イエ〜イ』と言った。それを見 てお町もボウィもアイザックもキッドの真似をした。そうしてブライアンとジャクリーヌはJ9の前から姿を消した。

J9基地でアイザックがキッドに意味真に言った。
「過去の事はもう過ぎた。お前にはまだまだ未来が沢山 ある」
キッドの肩にアイザックは軽く手を置いてやった。キッ ドはただ『イエ〜イ』と親指を立てて答えていた。


過ぎ去った過去にさよなら告げ
新しい未来を迎え入れるキッド
まだまだ心の傷は奥深く、
未来という薬が
癒すだろうしらずしらずの間に
前を向いてひたすら進めば
過去もまた増えるのは当たり前
どんな過去があっても
前を向いて生きることに代りなし

おわり


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